覚悟の磨き方 吉田松陰

松陰からの学び一

動きながら準備する

MIND SHOIN YOSHIDA

やろう、とひらめく。

そのとき「いまやろう」と腰を上げるか、「そのうちに」といったん忘れるか。 やろうと思ったときに、なにかきっかけとなる行動を起こす。それができな い人は、いつになってもはじめることができない。むしろ次第に「まだ準備

ができていない」という思い込みの方が強くなっていく。 いつの日か、十分な知識、道具、技術、資金、やろうという気力、いけると いう予感、やりきれる体力、そのすべてが完璧にそろう時期がくると、信じ てしまうのだ。

だがいくら準備をしても、それらが事の成否を決めることはない。 いかに素早く一歩目を踏み出せるか。いかに多くの問題点に気づけるか。い かに丁寧に改善できるか。 少しでも成功に近づけるために、できることはその工夫しかない。

よく行動する人は、知識は必要最低限でいいと考える。

なぜなら実際に動く前に、わかることなんてほとんどないと知っているから

である。

だからよく失敗する。だがそれで「順調」 だと思っている。

そのように私たちの脳は、自分の行動をうまく正当化するようにつくられて

いる。

小さくても、「一歩を踏み出す」という行為さえ続けていれば、「なぜこれが

「正しいのか」 脳が勝手に理由を集めてくれる。

吉田松陰は、行動につながらない学問は無意味だと考えた。

大切なのは、不安をなくすことではない。

いかに早く、多くの失敗を重ねることができるか。

そして「未来はいくらでも自分の手で生み出すことができる」という自信を、 休むことなく生み続けることなのである。

002

やり切るまで手を離すな

たいていの人はまだ序の口で、

いよいよこれからが本番だというときに、 自分の田んぼを放置して、

人の田んぼの雑草を取りたがるのです。

人の田んぼの雑草を取るというのなら、

まだいい方かもしれません。

一番多いのは、人が懸命に草を取っている姿を傍観して、 その取り方がいいとか悪いとか、批評ばかりしている人です。 まずは自分が今いるところからはじめましょう。

人生の喜びを十分に味わうために。

 

004懇願

お願いです。本当にお願いですから たった一回負けたくらいで、やめないでください。

007 後ろを見ない

ミスをして落ち込む暇があったら、

ただちに「次はこうする」と決めて、

新しい仕事に取りかかりましょう。

若ければいくらやり直したって、

たいした問題にはなりませんから。

008 なにを選ぶか、どう選ぶか

自分にとっての利 これをなるべく増やそう、残そうとすればするほど、

判断基準がぶれ、迷いが生まれます。 反対に自分の利益さえ一番後回しにできるなら、

やろうがやるまいが、どれを選ぼうとも、

物事は気持ち良く進んでいくものなのです。

自分のことを考えると、かえって自分のためになりません。

 

011 運が向かない人の考え方

壊そうとするから、壊されるのに、

打ち負かそうとするから、打ち負かされるのに、

人を見下すから、人から見下されるのに、

そうとは気づかずに、苦しんでいる人は本当に多いものです。

そしてすべてを失いそうになってもなお、

その原因を作ったのは自分自身なんだって、

考えが及ばないのは、本当に悲しいことです。

 

012 頭と心の関係

ご存じの通り、

すべての人の心には善と悪が同居していて、

その心がいいことも悪いこともさせます。

では性善"というのはどんなものかと言えば、

それは万人に生まれつき備わっているものですが、 やむにやまれず「いいことをしたい!」と思ったとき、 そうさせる心、それが〝性善〟に間違いありません。 ですが、間髪入れずに湧き上がる 「名声が欲しいから」とか

「得をしたいから」といった欲望が、「善」を邪魔してしまいます。

こういった欲望は、「善」を頭で考えるから、

生まれてしまうのです。

この頭から生まれるものを、

相手にさえしなければ、正義は実行できます。

頭のために、心をすり減らすほど愚かなことはありません。

頭は心を満たすために使うものです。

「心から満足できる行い」にもっと敏感になりましょう。

 

014 不安のない生き方

「先行きの不安」に心を奪われないようにするためには、

あれこれ目移りすることなく、

自分という人間を鍛えることに集中して、

「全力を出し切りますので、あとは天命におまかせします」 という心構えでいるのが、良いと思います。

017 感動は逃げやすい

山の小道というものは、 人が通っているうちは道ですが、

ひとたび人が通らなくなると、

すぐに草が生え、ふさがってしまうものです。

人の心も同じで、

良い話は誰もが好きだから、

すぐに影響されて「自分もがんばろう」と決意しますが、 なにも行動に移さないと、すぐに心から逃げてしまいます。

道ができるか、ふさがるかは一瞬です。

やってみましょう。

人はいつでも、いまこの瞬間から変われるのですから。

023 小さな肉体、無限の心

この肉体は自分、かつ一時的なものであり、

この心は宇宙、かつ永遠のものである。

というのが私の考え方です。

ですから、自分の肉体を誰かのために使っている人は、

いつもいきいきと輝いていますし、

反対に、自分の心を、自分の都合に振り回されている人は、 いつも暗い感じがいたします。

いつか肉体が消失したとしても、

まっすぐに生きた心は滅びません。

未来永劫、人々の心の中で生き続けるのです。

029 やる恥やらない恥

「やります」と宣言したことを、とりあえずやってはみたものの、

まったくうまくいかずに、恥をかいた。

「やります」と宣言したものの、もしうまくいかなかったとき に恥をかきそうだから、そうなる前にやめておいた。

二人の自分を鏡に映したとき、

本当に恥ずかしい人物はどちらでしょう? 

031 不器用の利点

すらすらと、うまくいったとしてもあまり意味がありません。 うまくいっても、なぜうまくいったのか、

人はすぐに忘れてしまうものだからです。

覚えが悪い方がよっぽどいい。

身体にしみ込むまで、くり返し努力できますから。

034 行動力を生む心がけ

日頃から威張っている人ほど、

いざっていうときになると黙りこんでしまいます。

日頃から「やる」って言いふらしている人ほど、 いざっていうときになるとなにもやらないものです。

未知なることを知ろうとすること。本質を見抜こうとすること。 その意識が一番、行動につながります。

035 恥ずかしいこと

凡人はまわりから浮いていることを恥じ、

賢人は細かいことを気にする自分を恥じます。

凡人は外見が地味であることを恥じ、

賢人は中身が伴っていないことを恥じます。

凡人は自分の評価が低いことを恥じ、

賢人は自分の才能が使い切れていないことを恥じます。

本当の恥を知らない人間が、私は苦手です。

036 感情が人生

照れないこと。冷めた態度を取らないこと。

もっと自分の感情に素直になりましょう。

不幸を聞けば泣けばいいし、

美しい景色を見れば、また泣けばいいのです。

感情は表現すればするほど、受け取る力が強くなります。 ありったけの心を動かして、人生を楽しもうじゃありませんか。

037 心を向ける先

うまくいっている人を見ると、気持ちが焦ってしまいます。

ついている人をみると、自分の運のなさに腹も立ちます。 でも、そんなものは巡り合わせだから、気にしなくていいので

す。

そんなことにかかわっている暇はありません。

一刻も早く、

「自分が今やらなければならない、

一番大事なことはなにか?」

をはっきりさせてください。

悩むべきは、そのことだけです。

039 なんでもやってみる

できないのではなくて、ただやっていないだけです。

まだやったことがないことを、

「怖い」「面倒くさい」「不安だ」と思う感情は、

過去の偏った経験が作り出す、ただの錯覚です。 実際にやってみれば、意外とうまくいくことの方が多いのです。

047 どうなったって平気

たとえどんなに追いつめられたとしても、

その追いつめられたぎりぎりのところから

いつでも起死回生をはかれるはずだと信じている

ある意味、楽天家じゃなければ、

リーダーはつとまらないと思います。

069 上に立つ人間の日常

どれだけまわりに嫌われたっていいのです。

無能だ、役立たずだと陰で笑われたってかまいません。

ただ組織が危機に陥ったとき、

心がぶれない、その覚悟さえできていれば。

日常を、非日常であるかのように過ごしましょう。

074 腹が据わっている人のおまじない

「一生やり続ける」

すごくシンプルですが

これほど多くを語る言葉もありません。

みだらな誘惑、未知の物事に対する恐怖、

手軽な安心感、どれも乗り越えることができるのは、

「一生やり続ける」この言葉が

背骨に叩き込まれている人だけです。

078 本気の志

人類が誕生して以来、

一つのことに本気で取り組んでいる人の姿を見て、 心を動かさなかった人はいません。

083 人である意味

人は「なんのために生きているか」で決まるのです。 心に決めた目標のない人間は、もはや「人間」とは呼びません。 もし思い出せないなら、今すぐ思い出す時間を作るべきです。

086 どう生きたいか

他人から馬鹿にされたくない。

皆そればかり気にするものです。

家がおんぼろだとか、服が時代遅れだとか、

ろくなものを食べていないとか。

しかし、人はあやういものです。

生きているときは生きていますが、

死ぬときは、もう死んでいるわけです。

今日はお金があっても、明日は一文無しかもしれませんし、

今日は皆から愛されていても、

明日は皆の心が離れているかもしれない。

ですから、私が大事だと思うのは、

ただ「自分はどう生きたいか?」 その方針に従って生活することなんです。

それが人の道というものじゃないでしょうか。

090 無尽蔵に掘り出せるもの

自分の外にあることは 求めたからといって、得られるものではありません。 外にあることというのは、

わかりやすく言うと、 「お金持ちになる」「有名になる」「人脈ができる」

みたいなことですが、

これらは結局、得ようとして、

得られるものではありませんから、

ここに心を尽くすのは馬鹿げています。

一方で、自分の内側にあるものは

求めれば、いくらでも得ることができます。

内側にあるものというのは

人を思いやる気持ち。

損得を考えずにやるべきだと思うことをやる気持ち。

礼儀を守る気持ち。

知らなかったことを、知ろうとする気持ち。

仲間との約束を守ったり、本音を言い合ったりする気持ち。

これらの気持ちは、

求めれば誰でも無限に手に入れることができます。

そして求めれば求めるほど、 自分と自分を取り巻く世界のことが好きになるのです。 いくら費やしても損はありません。

097 思い出すべきこと

能力の高さや、評判とは関係なく、

あなたにもひとつくらい、

得意なことがあることでしょう。

いったん他のことは中止して、

その得意なことに、

使えるすべての時間とすべてのエネルギーを

集中させてみてください。

忘れているのは、その覚悟ですよ。

098 その先には愛がある

心からやりたいと思うことはなんでしょうか。 それを「やりたい」と思うのはなぜでしょうか。

自分の欲求をとことんまで追求すれば、

皆、同じところに行き着きます。

「自分は自分のことを愛している。

そしてそれと同じくらい、皆のことも愛している」

ということに。

その性質は、天とか神様が作ったもの。

天とか神様というのは、もともと愛が好きなんですね。

099 欲しいものはすでに持っている

いまあるものを味わい尽くしましょう。

もう十分に受け取っているはずだから。

そういう態度を続けていれば、

他人が手に入れたものを欲しいとは思わなくなってきます。

欲しがらないでいると、

寡欲であるという評判が加わるから、

他人が着飾っているものも

自然に欲しいとは思わなくなってきます。

楽しみはいつも自分の中にあるもので、 環境は自分の幸福感に

なんら影響を与えるものではありません。

 

100 埋められないもの

自分にとって、なにが恥でしょうか。

義理を欠いてしまったことでしょうか。

まだ実績がないことでしょうか。

能力が足りていないことでしょうか。

役職や年収が人並み以下であることでしょうか

人からあまり好かれていないことでしょうか。

ですが、

人から敬意を集めようと、

いくら努力を重ねても、空しく感じられてしまうのは、

自分の力でどうにかできるのは、

自分の内側にあることしかないと、

すでにわかりきっていることだからです。

101 成功者の法則

後に大人物になった人が、

共通して行ってきたことは、

昔も今もたったひとつのこと。

それは身の回りに注意深く目と耳を傾けて、

どこかで、まだ世に出ぬ才能を見いだしたら、

他人がいくらその人のことを悪く言っていたとしても、 ためらうことなく声をかけ、交流することです。

108 恥ずかしがらずに手を差し伸べる

人が自分のために動いてくれないのは、 自分が人のために動いてないからです。 周囲に想いが伝わらないのは、 そもそも自分の志が浅いからです。

自分の身の回りだけではなく、世の中のことを見てみましょう。 役に立てることは、いくらでもあるのです。

あなたの助けはきっと必要なんです。

知らんぷりするなんて、別に格好良くありません。

111 壁を楽しめるかどうか

生まれつき才能をもった人はたくさんいます。

子どもの頃は、その才能が自然に輝いています。

ですが、その才能を磨き続けられる人は本当に少ないのです。

多くの人が

「才能さえあれば、途中で行き詰まることはないだろう」

と勘違いするからです。

才能はあったとしても、

なかったとしても、行き詰まるものです。 ただ行き詰まったときに、

「面白い」と思えるかどうかによって、 そのあとが決まってくるのです。

112 やってきたことのペースを守る

ひとたび才能が開花すれば、周囲にもてはやされるが故に、 才能に振り回され、潰れてしまう人だらけです。

本物になるまで二十年。

ただ、愚直に動いていればいい。

今がどんな境遇だったとしても、愚直に動いていれば、 いつか大きな花が咲くことでしょう。

126 本の持つ力

どんな本でもいいのです。

本を開いてみれば、その瞬間、人生が変わるかもしれません。 本にはそんな可能性を持った言葉が無数に転がっています。

でも読む人はあまりいません。

読んだとしても、ほとんどの人は

本に書かれている教えを真似しようとしません。

一度、真似してみればいいのにと切実に思います。

ひとつでもいいんです。

実際、真似してみたら驚くことだらけです。

そうしたらこんなこともできるんじゃないかと、 他にも試してみたいことがあふれてきて、 そのうち

「これは一生かかってもやり切れないな」

と気づくことになります。もっと早くやれば良かったと。

ああ、

とにかく、真似してみれば間違いないんです。

これは、

わざわざ言うことではないかもしれませんが、 言わずにはいられないのです。

150 嫌な人は鏡

愛されようとするのではなく、

こちらから愛しましょう。

尊重してもらおうとするのではなく、 こちらから尊重しましょう。

誰かが横暴な態度をとってきたら

「なにか失礼なことをしてしまっているのだろうか」

と自分の心に聞きましょう。

もし心当たりがなかったら、

「なにか身勝手なことをしてしまっているのだろうか」

と自分の心に聞きましょう。

ここまでは、やろうと思えばできることです。

いくら自分の態度を思い返しても、

自分には否がないと確信したとき、

急に相手のことが許せなくなるものです。

ですが、腹を立てても得るものはありませんから、

横暴な態度というものは、やんわり受け流すしかありません。

そのかわりに

「自分はどうすればもっと良くなれるか」

という反省をひとつ加えてみましょう。

反省をひとつ加えてみるだけで、

相手のことをもう少し許せるようになるはずです。

魅力あふれる人というのは、

自分の人生をどうするべきかと悩んでいます。 今日の悩みなんて、どうでもいいんです。

154 人が動物と違う理由

人には「五倫」、

つまり踏みにじってはいけないもの"が五つあります。 ひとつは親子の愛情、ひとつは自分が大切だと思う人の気持ち、

それから夫婦の役割を認め合う心、年上を尊敬する心、

そして仲間との信頼関係です。

人が人である理由は「心」にあります。

そして人は人の心に触れることによってのみ、 そこに進むべき道を見つけることができます。

動物には絶対に得られない、人であることの最上の喜びは、 「尽くしたいもののために尽くせること」です。

158 人生は目に宿る

人の心は、目を見ればわかります。

生き方はちゃんと目に宿っています。

目を見なければ、交流ははじまりません。

162 磨けばいつでも光る

人が生まれるとき、天は皆に才能を与えました。

でもほとんどの人は、目先の欲や些事にとらわれて、

その才能をためしてみようとすら思いません。

教えてあげましょう。

163 認められる順番

よそ者としてどう見られるかは、気にしないでください。

自分がやりたいことも、とりあえずは置いておきましょう。 自分が今いる場所で、自分ができる目の前のことを、

まずは精一杯やりましょう。

仲間だと認めてもらうのはそれからです。

165 やるならとことんまで

いいことをしたい。皆に喜んでもらいたい。

それはいいことです。

ただ残念なのは、

「月並みな奉仕」で考えが止まってしまうところです。 百にひとつ、千にひとつ、万にひとつの

「飛び抜けた奉仕」を考えてみませんか。

 

松陰からの学び

終わりを意識する

 

享楽にふけることで、一時的に忘れることはできる。

だがそれは静かに、着実に歩み寄ってくる。もしくは予想を裏切り突然やっ

てくる。

ひとりとして例外はなく、いつかは必ず対面する。

あろうことか、本人も知らないうちに。

死。 終わりを意識できるのは人間だけだ。

それでも懸命になって、死のイメージから逃れようとする人は、いつの間に 「人生はいつまでも続くもの」だと思い込まされているのかもしれない。 人生は長いと思う人もいる。 人生は短いと思う人もいる。 だが本気で生きるということは、

『わずかな残り時間でなにができるか」 を必死で考えることによく似ている。

やり残していることを、臆せずにやればいい。

死を意識すれば、人の生〟は否応なく正解を導き出すはずだから。

松陰は死罪だとわかっていながら、迷うことなく海外へ密航しようと試みた。 死ぬまで出られないとわかっていながら、牢獄の中で「人生とはなにか」を

学び、人に教え続けた。

三〇年という短い一生の中で、松陰が見つけた“死への決着〟とはなんだっ

たのか。