福岡伸一著 ルリボシカミキリの青 

 

瞬く星は風にかき消されそうだけど、わずかな輝きは失われることがない。でもその光は果てしなく遠くにある。君は、その時、そんな気持ちを忘れないでいてほしい。それは時を経て、くりかえし君の 上にあらわれる。

調べる。行ってみる。 確かめる。また調べる。可能性を考える。実験してみる。失われてしま ったものに思いを馳せる。耳をすませる。目を凝らす。 風に吹かれる。そのひとつひとつが、君 に世界の記述のしかたを教える。

私は、たまたま虫好きが嵩じて、生物学者になったけれど、今、君が好きなことがそのまま職業に 通じる必要全くないんだ。

大切なのは、何かひとつ好きなことがあること、

そしてその好きな ことがずっと好きであり続けられることの旅程が、驚くほど豊かで、君を一瞬たりともあきさせ ることがないということ。そしてそれは静かに君を励ましつづける。最後の最後まで励ましつづける。

ルリボシカミキリの青。

その青に震えた感触が、私自身のセンス・オブ・ワンダーだった。そ して、その青に息をのんだ瞬間が、まぎれもなく私の原点である。 私は虫を集めて何がしたかったのだろう。

それは今になるとよくわかる。フェルメールでさえ作りえない青の由来をつまり

こに世界のありようをただ、記述したかったのだ。